第3章
誕生
9ページの論文と、2枚のピザ
2008年 〜 2010年
その1 ハロウィンの夜の、1通のメール2008
2008年秋。世界は金融危機のまっただ中にあった。
そのころ、ある人物がコードを書いていた。名前は「サトシ・ナカモト」。正体は、いまも分からない。
当時の実物 ・ 論文の1ページ目
Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System
Satoshi Nakamoto
Abstract. A purely peer-to-peer version of electronic cash would allow online payments to be sent directly from one party to another without going through a financial institution.
和訳:完全なピアツーピア型の電子マネーがあれば、金融機関を通さずに、オンラインの支払いを当事者どうしで直接送れるようになる。
論文(PDF・英語)を読む ↗2008年10月31日、ハロウィンの夜。たった9ページの論文が、暗号の研究者たちのメーリングリストに届いた。
当時の実物 ・ メール
From: Satoshi NakamotoSubject: Bitcoin P2P e-cash paperDate: 2008年10月31日
I've been working on a new electronic cash system that's fully peer-to-peer, with no trusted third party.
和訳:信頼できる第三者をまったく必要としない、完全にピアツーピアの新しい電子マネーの仕組みに取り組んできました。
原文を見る ↗ピアツーピアは、銀行のような「真ん中の人」なしで、直接やりとりする仕組み。これが30年来の問題の答えだった。
その2 最初のブロックに刻まれた見出し2009
2009.01.03
LondonSaturday, January 3, 2009
Chancellor on brink of second bailout for banks
和訳:財務大臣、銀行への2度目の救済に踏み切る瀬戸際 ― イギリスの新聞「タイムズ」1面の見出し
2009年1月3日。イギリスの新聞の1面には、銀行をまた国のお金で助けるという見出しがのっていた。
サトシは、この見出しを、ビットコインの最初のブロックに刻みこんだ。
当時の実物 ・ ブロック #0 のデータ
#0
GENESIS BLOCK
- 日時
- 2009-01-03 18:15:05 UTC
- ハッシュ
- 000000000019d6689c085ae165831e934ff763ae46a2a6c172b3f1b60a8ce26f
- 刻まれた文
- The Times 03/Jan/2009 Chancellor on brink of second bailout for banks
「この日より前には作っていない」という証拠と、銀行の救済ばかりの仕組みへの皮肉。2つの意味があると言われているよ。
その3 最初の受け取り手2009
2009年1月。暗号学者ハル・フィニーが、ビットコインを動かし始めた。
当時の実物 ・ ツイート
Hal Finney @halfin
Running bitcoin
2009年1月10日(米国時間)
和訳:ビットコインを動かしている
原文を見る ↗10 BTC2009年1月12日 世界初の送金
サトシからハルへ、世界で初めてビットコインが送られた。
このころ動かしていたのは、世界で数人だけ。値段もなく、家のパソコンでかんたんにマイニングできた。
その4 1万BTCと、2枚のピザ2010
2009年10月、初めてビットコインに値段がついた。1ドルで1,309BTCも買えた。
当時の実物 ・ 掲示板の投稿
Topic: Pizza for bitcoins?laszlo ・ 2010年5月18日
“I'll pay 10,000 bitcoins for a couple of pizzas.. like maybe 2 large ones so I have some left over for the next day.”
和訳:ピザ2枚に1万ビットコイン払います。次の日のぶんも残るように、大きいのを2枚くらい。
スレッドを見る ↗2010年5月。フロリダのプログラマーラズロ・ハニエツが、掲示板に書きこんだ。
10,000BTC= ピザ2枚
当時の実物 ・ 掲示板の投稿
Topic: Pizza for bitcoins?laszlo ・ 2010年5月22日
“I just want to report that I successfully traded 10,000 bitcoins for pizza.”
和訳:1万ビットコインとピザの交換に成功したことを、報告します。
スレッドを見る ↗5月22日、ピザが届いた。手配したのは掲示板のユーザー jercos。代金は1万BTC、当時の価値で約41ドル。
ビットコインで本当にモノが買えると、初めて示された日。いまも「ピザ・デー」として祝われている。
その5 取引所の誕生と、最大のバグ2010
2010年7月、取引所マウントゴックスが誕生。ドルとの交換がかんたんになった。
WARNING
約1,844億BTC
2010年8月、プログラムのミスで、ありえない量のビットコインが生まれる事件が起きた。
サトシと開発者たちは数時間で修正版を配り、ネットワーク全体がそれに協力した。
管理者がいなくても、危機に立ち向かえることが分かったんだ。
その6 サトシ、去る2010
2010年12月。サトシの掲示板への投稿が、ぱったりと途絶えた。
当時の実物 ・ メール
From: Satoshi NakamotoTo: 開発者のマイク・ハーンDate: 2011年4月
I've moved on to other things. It's in good hands with Gavin and everyone.
和訳:ほかのことに移ったよ。ギャビンやみんなに任せておけば大丈夫。
サトシの文章のアーカイブ ↗
ブダペストにあるサトシの胸像。顔は鏡のようで、見る人が映る。「だれもがサトシ」という意味がこめられている。
写真:Fekist / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
それでも、ブロックは積み重なる
サトシのものとされる約100万BTCは、一度も動いていない。ビットコインはだれかに頼らない仕組みになった。
